羊と鋼の森
2016年本屋大賞にも選ばれた宮下奈都さんの作品が映画化されています。

(詳しくはこちら)
山崎賢人さん演じる主人公外村の先輩調律師の一人、秋野役には光石研さん
一見、はぁ??っと思ってしまうような口ぶりだけど優秀な調律師である秋野。でも、その奥にある気持ちがなんとも深くて私は大好きなのです(笑)
そんな秋野の【名言】を今回はお届けしたいと思います!

山崎賢人さん演じる『外村編』はこちら
鈴木亮平さん演じる『柳編』はこちら
三浦友和さん演じる『板鳥編』はこちら

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「ほんとうは僕だって、打てば響くように、もっと敏感に反応するように調整したい。でもそれを我慢している。響かないように、鈍く調整する。鍵盤にある程度遊びがあったほうが粗が目立たないからだよ。お客さんに合わせて、わざとあんまり鳴らないピアノに調整してるんだ」
(『羊と鋼の森』文庫144ページより引用)

 

主人公外村の先輩秋野の調律は迷いがなく早いけれど、確かな腕で手を抜いているわけではない。
ハーレーの例えが文中にありわかりやすく書かれています。
50㏄のバイクに乗ってる人にハーレーは乗りこなせない。反応よく調整したら技術のない人にはかえって扱いにくい。練習すればできる!という外村に秋野は、そもそも乗るつもりはあるのか、乗る気も見せないなら50㏄を整備してあげる方が親切なのだと。

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「おもしろくないよ。どうせならハーレーのほうをやりたい」
(『羊と鋼の森』文庫144ページより引用)

秋野だって、ピアノを弾きこなせる人の調律がしたいのだという気持ち。
秋野はできないのではない。やらないのだと。
高学年にバイエル弾いてる子なら熱心じゃない。そういう子には性能の良いピアノは弾きこなせないのだという秋野なりの葛藤と優しさなのです。

美しい音をを作ることが調律師の仕事でもあるのだけれど、それでも弾き手がピアノをほとんど弾かなければ、弾きこなせないならば、調律もお客様に合わせて調整をしてあげた方がお客様のためなのだという気持ち。

秋野は以前はピアニストだったのです。
当時調律をしてくれたのは板鳥で、ピアニストをあきらめたのも板鳥の調律で。
耳が良かった、良すぎたのです。
一流のピアニストの音と、自分の音が別物と知っていて、自分の中で流れる音と外で流れる音が違いその溝がずっと埋まらなかったのだと話します。
板鳥の調律したピアノに応えられなかった自分を感じていたのではないだろうか。
だから、弾き手のことを考えれば、弾き手に調整することが親切なのだという秋野の言葉は優しさというより私には切ない言葉に聞こえてきます。

でも良すぎた耳が腕のいい調律師の道となるわけだから、人生はいろいろ。
秋野の奥にある、本当はもっと引き出していける弾き手に出会いたい!そんな想いが次の言葉にも繋がっていきます。

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「ほんのひと握りの、幸運な人間だけだ」
(『羊と鋼の森』文庫149ページより引用)

調律師の目指すところはどこなのか。
主人公外村と先輩の柳のやりとり。
ピアノを弾く人のために、自分たちがしゃしゃり出てはダメなんだ、でも聴く人だっているんだからその人たちのためにも…

二人の会話のあとに秋野が言った言葉。
一流のピアニストの調律をしたいけれど、実際にできるのは
 ほんのひと握りの、幸運な人間だけだ。

幸運って何??
その場所にたどり着けるのは一体どんな人なのか…

その答えが次の言葉に詰まっているのではないかと私は思うのです。

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「才能がなくたって生きていけるんだよ。だけど、どこかで信じてるんだ。一万時間を越えても見えなかった何かが、二万時間をかければ見えるかもしれない。早くに見えることよりも、高く大きく見えることのほうが大事なんじゃないか」
(『羊と鋼の森』文庫246ページより引用)

調律師に一番必要なことは何か。
前回書いた憧れ調律師の板鳥は『お客さんでしょう』と答えました。
根気、度胸と柳が言い、さらに秋野が言います。

『あきらめ』と。

どれだけやったって完璧な仕上げには届かない。踏ん切りつけてあきらめをつけるという秋野。
一万時間説なんて信用しない。越えなくてもできるやつはできるし、越えてもできないやつはできないのだと。だから…

『ただやるだけ』
ぞくっとした。と文中にもあるのですが、まさに私も同じようにぞくっとしたのです。
外村にしたら、私からしたら素晴らしい才能を持っている秋野なのに、秋野が言うのかと(笑)あなたが言うのかと(笑)
一体、どれだけ遠い遠い道のりなんだろうと感じずにはいられない。

そして最後に出た言葉。
あきらめと言いながら、可能性を信じているというところ。
どれだけやったら届くなんて保証は何もなくて。それでも掴んでみたいな、出会ってみたいな、いろんな秋野の気持ちが入り混じり、でもとても純粋で私の大好きな場面の一つです。

才能って好きだという気持ちなのだと言った柳の言葉を思い出します。
秋野もとてもとても好きなのです。
離れられないのです。
ここは泣いてしまいましたね(笑)
ピアニストをあきらめて入ってきた調律の世界。そんな秋野の言葉だからこそ、重みがありました。

それぞれ言葉は違えど、調律師の仕事が好きで仕方ない個性ある登場人物が本当に素敵な本でした。
次回は主人公外村を急成長させていく存在、ピアノを弾く双子の一人【和音編】お届けしたいと思います。

お読み頂きありがとうございました。

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