羊と鋼の森
2016年本屋大賞にも選ばれた宮下奈都さんの作品が映画化されています。
(詳しくはこちら)
主人公外村演じる山崎賢人さんの先輩調律師・柳役には鈴木亮平さん。
先輩調律師柳の言葉にはハッとさせられます!
主人公外村が柳と一緒に調律に回り、柳からの頂くアドバイスがとても深いのです。
前回は主人公外村に、今回は外村の先輩調律師柳の言葉をお届けしたいと思います。

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でもさ、俺たちが探すのは440ヘルツかもしれないけど、お客さんが求めてるのは440ヘルツじゃない。美しいラなんだよ
(『羊と鋼の森』文庫112ページより)

少し説明をさせて頂くと、ピアノの基準音となるラの音、440ヘルツとなっています。この数値が高くなるほど音も高くなります。
有名な指揮者カラヤンのオーケストラのあの華やかさは442ヘルツ以上で合わせているからでもありますね。モーツァルトの時代が422ヘルツ、現在は440ヘルツと時代とともに基準音が高くなっていて、本の中にも「明るい音」を求める傾向とあります。

「明るい音」にしてほしい。
そんな要望が柳や外村、調律師を悩ませる場面です。
ヘルツの問題、また弾き手である打鍵の問題、椅子の高さ一つ、そんな工夫が調律だけでないところで「明るい音」に変えていくことができるとあります。

工夫をしても、手を尽くしてもお客さんによろこんでもらえない…

そんな中で出てきたのが、この柳の言葉。
440ヘルツでなく美しいラの音!

私自身、調律師さんに明るい音を求める一人です(笑)
この本を読んで、次の調律をお願いする時には、よりイメージが伝わるようにしようと思ってしまいました(笑)
ただ本当にその通りで、基準音の440ヘルツを求めているわけでなく、なんなら440ヘルツって何??(笑)くらいで…
美しいラの音。ここにそれぞれが求めている気持ちが凝縮されてるように感じます。
なんとも深いなと感じるのです。

調律師のお仕事にこのラの音を440ヘルツに合わせるということがありますが、音を求める方は音が合っていただけで満足していないという、お客様の気持ちをよくわかっている柳の言葉です。

美しいラを作るのが果てしなく難しいのだと思うのです。
明るい音も美しい音も言葉は同じかもしれませんが、求める音は人それぞれであるのですから。

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この柳の言葉の後の主人公外村の言葉も好きです。

それが440ヘルツで表せるのは、素晴らしいことのような気もします。ピアノはひとつひとつ違うのに、音でつながっているっていうか、周波数で語り合えてるのかなと思ったりなんかして
(『羊と鋼の森』文庫112ページより)

人それぞれ求める音がこの440ヘルツにおさまっていることにむしろ鳥肌が立つと言いますか(笑)言葉のイメージを共有することも難しい中で、さらに音のイメージを共有することはとても難しいこと。そこが共有できたとき、そうそれそれ!!となった時(笑)、この音で繋がった感覚になるんじゃないだろうか!

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才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似ている何か。俺はそうおもうことにしてるよ
(『羊と鋼の森』文庫139ページより)

前回に主人公外村について書いた才能のくだり…(詳しくはこちら)

調律には才能が必要なんじゃないか。
才能がない。でもそれをあきらめる口実にしてはだめだ!
経験だったり、努力だったりそういうもので置き換えていこう!と外村が才能について悩んでいる場面。

その時の柳が外村に静かに言った言葉がこれ!
好きな気持ちに勝るものはない!とはいうものの、いろいろなことにぶつかる中で、挫けて諦めてしまいたくなることだってありますよね。

この言葉の中の『離れられない』という言葉が私の中に鮮やかに残っています。
頑張って努力する前に、そうせずにはいられない!やらずにはいられない!
この離れられない感覚は私もほんの少しわかる気がするのです。

才能がないことを見せつけられ、怖くなる…
怖くて怖くて仕方ないけれど、それでも好きという気持ち。だからまたそこにあきらめないで向かっていくというそれこそが才能なんだと。
そんな風に言ってくれるような柳の言葉は、たくさんの人に勇気を与えた言葉なのではないのでしょうか。

この静かで物語にドラマチックな展開もないのだけれど、熱く感じる個性豊かな登場人物たち。
次回は主人公外村に影響を与えた人、【板鳥編】をお送りします。

お読み頂きありがとうございました。

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