(野村克也著『野村克也からの手紙』)

【野村克也氏の著書を徹底的にレビューしていく企画。今回は6月20日発刊の最新刊「野村克也からの手紙 野球と人生がわかる二十一通」を徹底レビューします ――記事の最後に自称野村マニアの私が採点。今回は過去最高得点がでる!?】

ノムさんの最新刊「野村克也からの手紙」をレビューします。ノムさんこと野村克也さんはこれまで110冊を超える著作を手がけられ、今年に入ってだけでももう6冊刊行というハイペース。そのなかでも「手紙」は6月20日に刊行されたばかりの最新刊
これが読み始めたらとまらなかった。2時間かからず一気に読み切ってしまった!

いつも読んでいただき、ありがとうございます。ノムさん大好きな月見草パパです。今日は私がノムさんの最新刊「手紙」を読んで面白かったところを紹介します^^。

この本は、編集者から「監督、手紙を書いてみませんか?」と言われたのがきっかけと言います(それにしてもいまでも「監督」って言われているんですね^^)。

手紙は正直言って、私の苦手分野である。まず、字がヘタだ。
次に、何を書けばいいのかわからない。ボヤキは得意だが、手紙に書くようなものではない。そんな私に、二十一通もの手紙を書けという。なぜ『21』なのかというと、私が日ごろ、「野球は3の係数でできている」と言っていたからだ。それなら9でも12でもいいではないか。一通でも、超難儀だというのに二十一通とはやるしかない。人間、死ぬまで勉強と、日ごろから言い続けているのだから。手紙だからこそ、より伝わることがあるかもしれない。あればと思う。長く会っていない人にも、あの世へも贈ってみよう。昔話に、今言いたいこと、言い残しておきたいこと。思いつくまま、書いてみよう(まえがきより)

 

ノムさんが好きな野球の係数という3の倍数ということで21通となったということ。
ファンとしては9や12ではなく21通も読めるというところがうれしいところです。
後でも書きますが、ではもし24通だったらあと3人はだれが入るのだろうとか思いをめぐらすのも楽しいものです。

ノムさんは「手紙だから書けることがある」と決断して書き始めます。
そして前代未聞の“手紙だけの本”を今読むことができます。
新刊の帯には「本当はだれにも書きたくない! 同志、弟子、家族への最初で最後の『手紙』」
もう一つ「手紙だからこそ、より伝わることがあるかもしれない。あればと思う」ともあります。
いかにもノムさんらしいサービス精神と同居した真剣さが見えてきそうです。

 

【書店の野球関係のコーナーには、カープの岩本貴裕選手やメジャーの大谷翔平選手、栗山英樹日本ハム監督など「並み居る強豪」がひしめくなかで83歳のノムさんが真ん中にドーン!と存在感をしめしていました^^】

 

●ノムさんが最も伝えたかった人と内容

ノムさん自身が21通を誰宛てに書くかで悩んだと書かれています。
選ばれし21通のお相手名だけを紹介しておきます。

・リーダーへ 助言の手紙
1宮本慎也様 2稲葉篤紀様 3伊藤智仁様
・挑戦者へ 激励の手紙
4田中将大様 5大谷翔平様 6甲斐拓也様 7清宮幸太郎様
・個性派へ 忠告の手紙
8江本孟紀様 9門田博光様 10江夏豊様 11古田敦也様 12新庄剛志様
・恩師、友へ 学んだことのお礼の手紙
13鶴岡一人様 14杉浦忠様 15稲尾和久様 16長嶋茂雄様 17王貞治様
・家族へ 愛の手紙
18母ちゃんへ 19克則へ 20沙知代へ
・遺言
21日本プロ野球にかかわる人たちへ

 

ここには、一番新しいノムさんの「言葉」があります。
21通もありますが、選ばれた21の対象に、何を伝えるのか、何を思っているのか、
何を話したかったのか、興味は尽きないものがありました。
それぞれにとっておきの思い出と助言や感謝や遺言を文字通り刻んでいます。
あー、この手紙がご本人に伝わったらうれしいだろうなと思うものばかりです。

ノムさんは人を喜ばせる人ですね。それは、話の落ちをつけたりするサービス精神
とともに、相手の成長や自信をもつことを願う思いや日本のプロ野球の発展への
真っすぐな願いがあるからだと思います。

(野村克也著『野村克也からの手紙』)

【手紙の一通目が「宮本慎也様」「脇役の一流」のアドバイスをいかして大成した人物を一番にもってくるのがノムさんらしい。礼儀正しい宮本さんへの手紙の中身も味わい深いものがあります】

●「手紙」の温かみと壮大なボヤキ

手紙ということは相手を思い浮かべて相手に伝えるために書くもの。
その文章にはどれにも愛情があります。また、架空の相手ではなく
実在する(した)人物への言葉だけに中身は真剣勝負の真実という緊張感
走ります。

同時に、この21通は本になる手紙であり、手紙でありながらの
壮大なるボヤキとも私は思います。つまり、“野村は誰々をわざわざ選んで、
こう言いたいのだ”と社会に発信して、相手と社会に伝える本だと思います。
あの95年のヤクルト対オリックスの日本シリーズで、攻略法なしと思えた
イチロー攻略にマスコミを使って「イチローの弱点はインハイだ」とボヤいたように

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21通目の「遺言」にある「日本プロ野球にかかわる人たちへ」の熱い提案が
日本のプロ野球界の経営者、選手、ファンなど文字通りすべてのかかわる人たちに
響くことを心から願います。

●「打順」が絶妙な21通

この本の帯には「長嶋茂雄様」が一番にあります。
やはり、一般向けにはノムさんが長嶋さんに何を言うかが注目なのでしょうが、
実際は長嶋さんへの手紙は16通目という落ち着いたいい場所にあります。
そしてその中身も本当に長嶋茂雄さんを認め、学んだことを書いています。

ちなみにノムさんが手紙で長嶋さんにものを伝えるときは

「チョーさん」じゃなくて「お前」と呼ぶ仲なんですね。本当に気心知れた仲なんだなあと伝わりましたよ。

お前と稲尾和久、王の4人で1963年のオフに言ったヨーロッパ旅行は、
楽しかったなあ。・・・野球のことは忘れ、4人で楽しんだ。行く先々で、
それぞれの性格がはっきり出て、面白かった。お前のせっかちさが、
改めてよくわかったよ

 

長嶋、野村、稲尾、王の4人で楽しまれたヨーロッパ旅行のお話は、本当に素敵ですね。
映像などには残っていなくて残念ですが、ノムさんの記憶の楽しそうな情景が浮かびました。
それにしても豪華なメンバーの旅行でしたね。

ちなみに17通目の王貞治さんには「ワンちゃん」と呼んでいます。
やっぱり本人を前にして語るように書いていることが伝わり、
この本が読めてよかったと思いました。

(野村克也著『野村克也からの手紙』)

【実は本屋で手にしてまず「長嶋茂雄様」を読みました^^。何を伝えるのか気になる気になる気持ちで。「お前」と呼ぶ書き始め。最大の尊敬の言葉。そして最後は「ひまわりと月見草」。こんなに熱中して読んだ文章はそれほど出会えません。面白いです】

●読みどころばかり トリハダの話 泣かせる話 技術の話

21通の手紙には、どれも読みどころいっぱいです。

・冒頭にこれからのリーダーになる人を念頭に、
宮本慎也さん、稲葉篤紀さん、伊藤智仁さんをだしているところが
いかにもノムさんらしい。本当に努力で大成した人たちだからです。
本のトップは長嶋さんではないのです。

・野球ファンとして、「これこれ!」とトリハダが立つようなエピソードが
たくさん出てきます。一つだけ紹介すると、10通目の江夏豊さんへの手紙で、
あの「江夏の21球」を記者席最前列で観ていたノムさんの思ったこと。
9回裏、ノーアウト満塁。ノムさんからは近鉄ベンチが丸見えで出てくる言葉。

ふと見ると、西本(幸雄=監督)さんがニターッと笑っている。
おそらく『勝った』と思ったんだな。そう思ったときが、一番危ないんだ

この後試合は、皆様ご存知のように江夏の力投で近鉄は0点に抑えられ広島が日本一になったのでした。
このノムさんの西本監督の表情を見る目、この勝負師ぶりは読んでいて体が熱くなりました。

18通目の母ちゃんへ。これはノムさんの子ども時代からの「母ちゃん」の
記憶がたどられて泣かせられました。実はノムさんが長嶋、王といった選手が
日の当たるひまわりなのに対して自分は暗くなってからひっそり咲く月見草という例え
一番元の話は、幼いころのお母さんとの会話にあったことを知りました。

だれも見てくれない中、一生懸命花を咲かせる。あれは俺にも、
母ちゃんの人生にもぴったりの花でした。 母ちゃんもまた、月見草

としめくくられています。ノムさんの原点の一つをみせていただいた思いがします。

 

技術の話。7通目、清宮幸太郎様、17通目の王貞治様などは読んでいて、
ノムさんが熱く技術の話をしていることに出会います。
清宮選手へ

左ピッチャーと対戦したときの君もそうだった。
左ピッチャーの球を
見逃した瞬間、前に突っ込むことも開くこともなかった。
カベを崩さず、ボールをよくひきつけてコンパクトに打つ。
理想的なフォームができているのを感心した。
タメとカベは、バッティングの生命線。私の先輩は昔、いいことを言っていた。
『野村、タメを覚えたらカネが貯まるで』
どうか、この言葉を忘れずにいてほしい

など、さすが、技術を伝えてきた人だと思いました。きっと清宮選手には伝わるでしょう。
野球技術を語っているときのノムさんは現役そのもの
ずっと元気に語ってほしいものです。

●おまけ もし「あと3人」出せたとしたら(笑い)

冒頭に、この本が21通の手紙であることについて
「なぜ『21』なのかというと、私が日ごろ、『野球は3の係数でできている』と
言っていたから」というノムさんの言葉を紹介しました。

私なりの想像になりますが、もしこの本にあと3の倍数を増やして
24通の手紙としてあと3人出るとしたら誰なんだろうと考えてしまいました。

私が思うに、その中の一人にはきっと、元巨人監督の川上哲治さんは入るはずだと思います。
あとお二人は、森祇晶さん、福本豊さん、イチロー、それとも高校時代の清水先生、
それともノムさんの文章の師匠である草柳大蔵さんかなとか、、あー、すでに3人を超えていますね^^。

それで、最後の章の21通目の章の題が「遺言」とあります。私はここに、
ノムさんの狙いをみた気がしました。ノムさんが尊敬すると公言して毎回の文献に登場してくる
川上哲治さんが、現在のノムさんと同じ83歳のときに「遺言」という名の著書を出していらっしゃいます。
ノムさんはきっと天国の川上さんにも「ここで真似させてもらいましたよ」
心では伝えているのではないかなと私は確信しました。

ノムさん、私の推理は当たっているでしょうか?(笑い)

(野村克也著『野村克也からの手紙』)

【この本に一枚だけだされた写真はサッチーさんとのツーショット。サッチーさんへの手紙もエピソード満載で愛が伝わります。またこの本には「野村克也 年度別打撃成績」「野村克也 年度別監督成績」の一覧がでています。さすがベースボールマガジン社。そのデータとノムさんの成績そのものに「あっぱれ!」です】

<文献データ>

「野村克也からの手紙 野球と人生がわかる二十一通」 ベースボールマガジン社 2018年6月初版

【===月見草パパの採点=== 100点

エピソードもボヤキも野球好きもみんなが楽しんで読める内容ばかりで、手紙で相手の名前をあげているだけにそこに嘘はなく、ノムさんの本心がわかる本です。その上で、いつものごとく終わりには落ちを入れるサービス精神もしっかりあり、ノムさんの人間性がでていて読みやすく読後感も最高です。ついに100点をつけるときがきました!ノムさんの総決算の大サービスの一冊、日本プロ野球の人間の歴史を知り、課題、未来を考える内容を手紙で伝えるという最高のエンターテインメントとして結実させた本。読めてよかった最高傑作です。