「哲学的な歌、ですよ」
4年前のインタビューで、そう語っていた氷室氏。

「たどりついたらいつも雨ふり」は、モップス(活動期間:1966年〜1974年のバンド)の曲で、吉田拓郎さんが作詞作曲された作品です。

氷室氏はこの「哲学的な曲」をカバーし、2枚目のシングル「DEAR ALGERNON」(1988年リリース)のカップリング曲として収めています。
その後のアルバムに収められることはなく、また、ライブでもほとんど歌われることはありませんでしたが、「たどりついたらいつも雨ふり」は氷室京介の代表曲の一つ、わたしはそう思っています。
今回は、氷室氏がインタビューで語った言葉とともに、この曲を心で感じていきたいと思います。

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「たどり着きたい場所へ」

「また今日も、たどり着けなかった」
「また今日も、たどり着けなかった」
「ライブ終了後にはいつも、自分自身に対して腹を立てているんですよ」

いつかのインタビューでそう語っていた氷室氏の言葉が、わたしの中で息づいています。

(たどり着きたい場所とは、一体どこなのだろう?)

気がつくと、それがわたしの人生哲学のようなものになっていました。

それは「ここではない何処か」を求めて、彷徨うでも、さすらうのでもなく、「ここより、今より、さらにフィットする場所」を、一歩ずつ探求し続けていく生き方。

彷徨い、さすらうのでなく、迷いながら間違いながら、そのたどり着きたい場所を模索していく生き方。

そういう生き方をしていきたい、今も、そう思っています。

氷室氏の言葉、音楽、哲学、そういうものに触れさせてもらうことで、わたしたちファンは自分自身の生き方と真摯に向き合いたくなるのです。

「たどりついたらいつも雨降り」

いつかは何処かへ 落着こうと
心の置場をさがすだけ

たどり着いたらいつも雨ふり
そんな事の繰り返し

やっとこれでオイラの旅も終わったのかと思ったら
いつもの事ではあるけれど
ああ ここもやっぱり どしゃ降りさ

これは、「たどりついたらいつも雨ふり」の歌詞の一部分ですが、氷室氏の音楽に向き合う姿勢を、そのまま象徴しているように感じられます。

終わりのない、目指すべき到達点。

自身の目指す音楽について、一切の妥協を許さない氷室氏だからこそ、たどり着いた場所がいつも雨降りに感じられたのかも知れません。

満足できない、というより「ここで満足しない」というプロフェッショナルとしての厳しい道のり。そちらを選び続けてきたのだろうと思うのです。

「氷室京介WOWOW SPECIAL『25th ANNIVERSARY PROGRAM RE-EDITED VERSION』」インタビューよりvol.1

25周年を迎えた氷室氏に、インタビュアーがステージへの想いを尋ねます。

「『集まってきてくれたオーディエンスに最高のものを』と、『自分が納得できることに、どこまで対峙していけるか』という想いでやってきました。それも負けている気分じゃなくて。でも、毎回、毎回、負けた気分を味わっています。そう、それこそ、成功率なんて3%くらいじゃないですか。100本やって3本最高だっていうステージがあって。
また今回もダメだと思いながらもステージをやることが、それに立ち向かっていることだと思うので」

「例えばスポーツの世界だったら、どんな試合内容でも勝ちは勝ちじゃないですか。ただ、やっている種類が音楽なので。
『オーディエンスが盛り上がった、今日も最高だったと感じてもらえた』それが勝ちなら、ほとんど勝っていると思います。だけど、そこじゃないところなんですよ、求めている価値観は。自分自身のこだわりで、一番どうにもならないところですよね。本当に手に入れづらいというか。めちゃくちゃ穿った言い方をさせていただければ、アーティスティックということだと思うんですけど」

 

最高に盛り上がったライブの後に、そのような悔しさや葛藤をいつも抱えていた氷室氏の言葉。

彼自身が求める音楽を、苦しいまでに、ストイックなまでに、追求し続ける姿。

そういう生き方が、ステージにいる彼を時に切ないほど美しく映していたのだと思います。
わたし達ファンは、その姿に心底魅了されていました。

ちなみに、このインタビューは、2014年6月12日、25周年ライブツアーの合間を縫って行われました。
そう、あの「氷室京介を卒業する」と宣言したライブの直前に行われたものです。

そしてそのライブツアーの最終日、横浜スタジアムで「たどり着いたらいつも雨ふり」を歌ってくれた時の熱い想いは、今も忘れられません。

あの時の氷室氏の「たどり着きたい場所」に、わたしは居ることができたのだと感じています。

そして今、「わたしはたどり着きたい場所に、ちゃんと進んでいる?」と自らに問いかけながら前に歩んでいます。

「氷室京介WOWOW SPECIAL『25th ANNIVERSARY PROGRAM RE-EDITED VERSION』」インタビューよりvol.2

たどり着いたらいつも雨降りなんだと思いますよ、きっと。
多分、人生たどり着いた時も、雨降りの気分なのかも知れないですよね。
ただ、雨降りなのが、めちゃくちゃ自分でやりきったという幸せの雨降りなのか、誰かにこっちに連れてこられて、俺は不幸だったなと思う雨降りなのか、そこの違いは大きいですから。
後者のような、そんな情けない雨降りには絶対しないつもりなので。

氷室京介の人生哲学に触れることができる「たどり着いたらいつも雨降り」
聴いていただけたら嬉しいです。

聴いた後、今たどり着いている場所が、次なるたどり着きたい場所へと繋がっていることが感じられる、そんな一曲です。

読んでくださって、本当にありがとうございました。

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