【野村克也氏の著書を徹底的にレビューしていく企画。今回は今年2018年3月新刊の「番狂わせの起こし方」を徹底レビュー ――記事の最後に自称野村マニアの私が採点します^^】

世の中には、番狂わせというものがあります。大方の人が勝つと思っているチームがまさかの敗北。逆に勝てないと予想されていたチームがまさかの勝利。そういう予想を覆すことが現実には起こり得ます。だから面白いのですが。。
今回紹介する「番狂わせの起こし方」は日本プロ野球界きっての知将と言われるノムさんこと野村克也さんの「弱者が勝ち上がる」勝負強さの極意を「26の法則」にまとめた本です。今年の3月初版のできたてのこの本には、昨年12月に残念ながら他界された奥さん、野村沙知代さんへの愛情あふれる感謝の思いも語られています。「番狂わせの起こし方」の読みどころと感想を書きます。

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いつも読んでいただきありがとうございます。ノムさん大好きな月見草パパです。

●才能がない人間こそが、番狂わせを起こす

「教えてほしい。今年で83歳になる老いぼれの話を、あんたら、なぜ聞きたがるんだ?」
取材に来た雑誌社の人間に、一度、真剣に尋ねたことがある。
いまのプロ野球事情をどう思うか。プロフェッショナルとは何と考えるか。あるいは生き方や働き方へのアドバイスに至るまで――。なぜか一介の年老いた野球評論家である私のところに話を聞きにきたがる人が、実に多いからだ。
すると、彼らに即答された。
「いや、他にないからですよ」
まったくその通り、と笑ったものだ。(p4)

 

「はじめに」でノムさんは、83歳になろうとする自分に話を聞きにくる記者たちに、そのわけを聞いたところから書き出します。「他にないから」という答えにまったくそのとおりと笑い、いつの間にか同時代をたたかった才能あふれる者たちを、あまり見かけなくなったときに、野球を語れる自分にたくさんの声がかかることを「番狂わせが起こった」と振り返ります。
そして、「才能がない。運がない。エリートでない。そんな人間こそが、番狂わせを起こす」と確信を語り、番狂わせを起こしてきた人間として、その起こし方を「26の法則」として伝えるのが本書だと話します。
「他にはなかなかいない存在として、長くしぶとく生きるための術を、感じ取ってもらえれば幸い」と願いをこめます。

●ノムさんのお茶目で“深イイ”法則

この本が紹介する、番狂わせを起こす「26の法則」はそれぞれの法則が1000字から1500字のコラムのような読み物になっており、とにかくテンポよく読めます。一つひとつの最後に落ちがあり、ノムさんが舌をだして笑ってしめくくるような顔がうかびます。

例えば「法則12」の「目標は口にしない」は、つまりは自分のために頑張るようでは一流になれないという話をされているのですが、そう言いながら、「ちなみに、私の目標はピンピンコロリ。周囲に迷惑をかけずにポックリ死ぬことだ」としっかり目標を語っているところがお茶目ですね。話の中身では現役時代に王貞治選手がノムさんのホームラン数のシーズン記録も通算記録も追い抜いたライバルであり、王選手に勝つことが目標だったと語っています。ノムさんが言いたいことは、個人的な目標をもっても「心のなかで思う」だけが正解で口にだしてはいけないということで、あくまでチームの勝利に貢献することが第一という自覚を忘れぬようにということです。
だからノムさんも現役時代は「王がライバル」などと公言したことはないということ。引退後に、取材や講演で「世界の王を最も抑えたのは野村だ」とさりげなく伝える活動をしているだけだと語り、「もっともこの事実をつたえ続けるためにも、前言を撤回させてもらう」とし、「まだまだポックリ逝くわけにはいかない」と締めくくっています。いたずらっぽく舌を出して笑うノムさんの顔が見える気がしませんか?

まあ、こんな感じで一つひとつの「法則」が深イイ(深くていい)話なのです。

【とにかくテンポよくポンポン読める本。1時間で半分まできました。それでいて法則を活かすため持ち歩いて何度も読み返したくなる本です】

●さすが!経験者の実話は面白い

ノムさんは日本のプロ野球に選手・監督・評論家として50年以上かかわられてきました。本の中でも、50年代、60年代、70年代、80年代とオールスターに出たのは自分だけではないか、と書かれています。そして90年代からはヤクルト、阪神、楽天の監督もされて、その間に社会人野球の監督もされました。その人生でのたくさんのエピソードがやはり面白いのです。
この本は、「番狂わせの法則」としてそれらを語っていますから、実話エピソードの見方もより面白いものがあると思います。

二つだけ紹介します。

一つは「法則04」の「仕事道具にとことんこだわれ」のなかの話で、成果を上げ続ける人の共通点であるという話のなかのこと。ノムさんは頭が大きくて現役時代に大リーガーが使っていたヘルメットをずっとチームが変わるたびに色を塗り替えて使い続けたということ。最後のチームは西武ライオンズでした。そのヘルメットを後に、頭の大きい選手がみつけて使いだしたということ。それは清原和博選手だったという話です。ノムさんと清原という意外なつながりにおかしさがこみ上げるとともにノムさんから清原氏が野球界に恩返しすることを願っていると激励の言葉でしめくくられていて、人間的なあたたかさを感じます。

もう一つは「法則02」の「見た目にもっとこだわれ」のなかの話。人の心理は必ず外見ににじみ出るという話で、ここで長嶋茂雄氏が選手時代にしめしたプロフェッショナリズムとして「自分がどうすればかっこよく見えるか」にまで強く意識していたことが語られます。有名な話として長嶋選手はわざと大きめのヘルメットをかぶって打席に立ってフルスイングして、思い切り空振りするとヘルメットがグルン!と回って飛んで、思い切りあるプレーが誇張される。ファンにどう思わせたいかをいつも考えていたと長嶋氏をスターとして評価しています。
あるシーズンオフの日米野球のとき、ノムさんが長嶋選手と会話した話は他の本でも読みましたが、この本の「見た目にこだわる」法則の目で読むとまた新鮮です。

「チョーさん、毎試合フル出場は大変でしょ。監督にいって休ませてもらったら?」
すると長嶋はこう答えたよ。
「いやあ、私は毎試合出ているけど、私のことを見に来てくれるお客さんは、もしかしたら初めての野球観戦だったり、一生に一度しかない観戦かもしれない。そう考えると休めないよ」
二の句が継げなかった。仕事に対するこんな姿勢こそが、本当のプロの「美意識」なんだ。見習おう、と素直に思えた。(p32)

 

私が紹介した話のどちらも“大きなヘルメット”の話になったことはまったくの偶然です。しかし、長嶋、清原はじめ大物選手との豊富なエピソード。別の話ではいまメジャーで活躍する大谷翔平選手との会話も出てきます。ノムさんの話はそこから感じて考えて行動した話ばかり。面白いはずです。

【仕事・人生に奇跡を起こす26の絶対法則――ノムさんの最近の本は総決算感が強く、何かのテーマがうきあがるような深みがあると思います】

●私は“運”を大切にしてきた

「法則17」では「運には引き寄せ方がある」として、幸運・不運をわける正体について語ります。
ここで実は私は新鮮に読んだのですが、ノムさんも現役時代に「ゲン担ぎ」をしていたということ。連敗すると球場入りするコースを違う道順に変えていたり、連勝すると下着をツキが逃げないようにパンツを替えなかったりと。。さすがに5連勝もすると臭ってきて困ったとはまた笑わせてくれますが。
そして、ノムさんが運を語るときに共通しているのは、自分がこの歳になるまで野球で飯を食わせてもらえることは「運がいい」という感謝の思いです。「運と不運は紙一重」という節(p126)は、本当に運を引き寄せたんだなあと伝わってきます。

高3のときに自分が配達していた新聞の小さな広告で「南海ホークス新人募集」とあったのをみつけてとびつき、300人以上が受けたものを何とか引っかかり、キャッチャーとして肩を鍛えてレギュラーを取っていったのはすべて紙一重の運がもたらしたものだけど、それをつかむための準備を怠らなかったことが引き寄せたとも思っていると、ノムさん流の運の核心を語ります。「準備さえできていれば、突然、目の前に現れるチャンスを逃がさずにつかめる。努力なき者はこれができない。それこそが運の正体だろう」(p128)。味わい深い言葉です。

「法則23」の「仕事はいくらでもあるけれど、この女性は世界にひとりしかいない」という話は、男女関係は勝負と似ているという内容なのですが、この法則名、熱いですね!

ご自身が女性が苦手だという話にはじまり、昨年12月に亡くなられたサッチーこと野村沙知代さんへの思いがあふれるように書かれています。ただ湿っぽくなく、若いころに占い師に「あなたは野球選手としてうまくいくはず。ただし・・・」と続けて言われた「あなたは女性で失敗する」というエピソードで読者を笑わせて、サッチーさんとの出会いやそれをきっかけにしたトラブルなどが語られます。しかし、最後がいいのです。

男女関係は勝負と似ている。敵を知り、己を知って落とし、落とされる・・・。だから女性を味方にするためには、相手をよくよく観察して洞察することから始まるのだろう。まあ、最終的に私はリードされる以上に、仕事もカネも含め、完全なる沙知代監督の「支配下選手」になっていたが。
そんな彼女がいなくなった。
いまだから本当のことがいえる。あの占い師は間違っていた。
私は野村沙知代というかけがえのない女性と出会えた。それは紛れもない成功だった。(p164)

 

ノムさん、熱すぎますね。「この女性は世界にひとりしかいない」と思える相手と結ばれること(女性ならば「この男性は」になるのでしょう)こと成功であり、自分は紛れもない成功者だと語れる80代って、かっこいいなと素直に思えました。

【人は亡くなった後に少しでも、あの世からこの世を見ることができるのでしょうか。「私は野村沙知代というかけがえのない女性と出会えた」――天国のサッチーさんにここまでノムさんが書いていることが伝わりますように】

<文献データ>

「運 ツキと流れを呼び込む技術」 2018年3月初版

【===月見草パパの採点=== 90

とにかく読みやすい本です。「弱者が勝ち上がる」勝負強さがどういうものかを「法則」としてまとめたところが非常に教訓をわかりやすくとらえやすくしています。26というのは半端な数字のようにも思えますが、ノムさんの頭にあることをすべて出したということなのでしょう。成功法則の書として、野球好きにはもちろん、初めてノムさんに接する人でも面白く読める本だと思います。法則一つひとつに落ちがあり、笑わせてくれるサービス精神もさすがです。

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