(野村克也氏著書・「凡人の強み 正しい努力だけが人間を磨く」)

レビュー ――記事の最後に自称野村マニアの私が点数をつけます^^
世の中には、天才と呼べるような人がいます。しかし、圧倒的な人は自分のことを凡人だと思っているでしょう。もし、「凡人にこそ強みがあるのだよ」と語ってくれるお話があったら興味がわきませんか?

元プロ野球選手・監督で現在は野球評論家のノムさんこと野村克也さんの「凡人の強み」では、福本豊さんとの勝負から見える「プロの戦い」が印象深いエピソード。こちらの記事では、凡人の強みの感想を野村マニアの私が心を込めて綴ってまいります。

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いつも読んでいただきありがとうございます。ノムさん大好きな月見草パパです。

 

●不器用な人間こそ強くなれる カメにはカメの強み

(ウサギとカメのように)カメがいつの間にかウサギに追いつき、気がつけばウサギを追い抜いているということは、実社会でもしばしば起こり得ることである。
ではなぜカメは、時にウサギに追いつき追い抜くことがあるのだろうか。
私は、カメにはカメならではの“強み”があると思っている。それは「否が応でも苦労を強いられる」ということだ。・・・ウサギと違い、カメは階段を一段一段上るごとに苦労に直面する。この苦労を苦労で終わらせずに自分を高めるチャンスに変えることができたとき、カメがウサギに追いつき追い抜く可能性が生まれる。
私自身はウサギとカメで言えば、間違いなくカメである。(p4)

 

この本は冒頭にウサギとカメの話がでてきます。鳴り物入りでデビューした選手と目立たなかった選手が5年ほどするとすっかり立場が逆転していることがあるという話をノムさんは、ウサギとカメの話に例えています。そしてご自身がカメであるとも。

ノムさんは、高校卒業後に自分がキャッチャーとしてやっていけそうな南海ホークスを選んでテスト生として入団。1年目を終えてクビと言われ、何とか頼み込んで2年目に入ったときにどうすればキャッチャーのポジションをとれるかを自分で考えます。

当時の野球界では「利き腕では箸より重いものは持ってはいけない」という非科学的なことが言われていたなかで自己流に筋力トレーニングをして肩を強くしてポジションをとりました。苦労に直面する、苦労を抜け出すために一生懸命「思考」する。研究する。すると自分の状況や心理、まわりの変化などを敏感に察知する「感性」が磨かれる。

そして当時タブーとされていた筋力トレーニングに取り組んだように新しいことにチャレンジする「勇気」も身についていく。苦労にまともに向き合った人間は、「思考」「感性」「勇気」を備えることができると確信を書きます。

ノムさんは南海入団当時は、「ズバ抜けた素質を持っているわけではなかった」(本人の評価)が、選手生活のなかで日本のプロ野球界で2人しかいな3000試合以上の出場(もう一人は谷繁元信氏)、王貞治氏に次ぐ657本のホームラン記録、その後の監督の経験というのは、苦労に向き合った結果だと書いています。

この本はノムさんをはじめとするたくさんの不器用な選手が「思考」「感性」「勇気」を備え強くなっていったエピソードにあふれています。それは「凡人」が、実社会で己を知りどうたたかえば力をつけられるのかのヒントを与えてくれるものです。

●天才でなくても成功する方法

私はここまで「苦労」をキーワードにしながら、田中や衣笠、私自身の話をしてきた。
ただし誤解してほしくないことがある。それは苦労は、「ただ苦労をした」というだけでは何の値打ちもないということだ。・・・
大切なのは「苦労すること」ではない。「苦労を経験したこと」をきっかけとして、そこから自分が何を感じ、どう考え、どんな行動を起こしたかが問われるのである。・・・
2軍で不遇な選手生活を送っていたとしても、何の努力もしないままくすぶっている選手については、苦労人とは呼ばない。苦労は努力に昇華できてこそ初めて価値を持ち、周りからも認められるのである(p43)

 

ノムさんは「論語」の言葉、「子曰く、位無きを患えず、立つ所以を患う。己を知る無きを患えず、知るべきを為すを求む」という言葉を紹介し、自分の精神の中心点を語ります。これを現代語に訳すと、「自分が官位を与えられていないことを嘆いてはいけない。

それよりも自分が官位を与えられるに適した資質があるかどうかを心配しなさい。また自分のことを認めてくれる人がいないことを憂えてはいけない。それよりも人に認めてもらえるだけのことができているかどうかを心配しなさい」という意味だと書きます。そして、そういう努力をして一流選手になったヤクルトの宮本慎也選手などのエピソードを語ります。

ノムさんのミーティングは選手に対して野球論そのものとともに人間的な成長を論じるものが多かったといいます。論語で精神を説明するというところも味わい深く思いました。少し「野村ミーティング」に参加した気持ちになりました。

現役引退されてヤクルトの監督につくまでの9年間の解説者時代にそうとう本を読んで、自分の伝えたいことを言語化する勉強をしたということ。それが監督時代の言葉の力になったことも書いています。自分にないものに気づき、考え、感じ、行動する。だれもが活かせるようにわかりやすく語ってくれています。

●本当の勝負は「知力と知力」の戦い

変化球に翻弄されたバッターは、どうすれば変化球が打てるようになるかを必死に研究し、苦手克服に打ち込むようになる。またバッテリーの配球を分析し「読み」の制度を高める努力をする。一方のバッテリーも、相手バッターは配球を読みようになってきたら、今度はその裏を読む配球でバッターを打ちとろうとする。(p229)

 

ノムさんはプロ野球選手の条件として、体力・気力・知力の3つがそろっていることだと語り、「力と力の勝負」と称して気力と体力だけで勝負するのはプロ野球選手以前のレベルだといいます。

ここからのエピソードがまた面白く読ませるものが続くのですが、ノムさんがキャッチャー時代の敵チームの盗塁王、福本豊選手との対決の進化はプロ野球の発展にむすびついていることがよくわかる話です。現役時代日本歴代一位の1065盗塁(二位は596盗塁の広瀬叔功選手)の盗塁王の福本選手に塁に出られたらもう二塁打と同じになる。

何とかアウトにするためにと考え、当時の日本のプロ野球になかったクイックモーションというボールを投げるまでの時間を短くする投げ方をピッチャーにやらせる。それが対福本で効果を上げる。

他球団にも広がりクイックモーションは野球界に定着する。それに対して福本選手もまたタイミングを見つけて走る技術を上げる。そういうことでみるみるお互いがレベルアップしていったという話は考えて感じて行動するということが物事を進化させるという実例をしめしたものでとても面白いものです。

ただノムさんは、最近の日本のプロ野球にこういう知力の対決がなくなってきていることをボヤくのですが。

私は不器用な人間だったぶん、人一倍考え、感じ、またプロで通用する選手になるために失敗を恐れずに、常に新しいことにチャレンジしてきた。だからこそ私は、テスト生という身分からスタートして、選手としても監督としても3000試合以上に出場することができ、いまもこうして野球の世界に携わり続けることができているのだと思う。(p244)

ノムさんから「凡人」への激励の言葉を受け取って、また自分も考え、感じ、行動していきたいと思います。

<文献データ>

「凡人の強み 正しい努力だけが人間を磨く」 2016年3月初版 (14年5月に刊行された「理は変革の中に在り」を改題し加筆、訂正の上、文庫化したもの)

 

【===月見草パパの採点=== 88点

世の普通の不器用な大人、凡人と自分で思っている人に、実は凡人こそ強いということを自らと不器用で一流になった選手のエピソードでわかりやすくふりかえる。不器用な人は苦労するが、そのときに、「考え」「感じ」「行動」するかどうかが分岐点なのだと何度も示され、印象づく。他の野村本に比べボヤキや名言は少ない気もしますが、人生の教訓と野球の面白さにあふれて誰にも読みやすい本ですし、中年サラリーマンの私にとっても非常に学び深い一冊となりました。

 

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