「迷いながら間違いながら、自分だけの道を歩んでいけばいい」

氷室京介の「IF YOU WANT」は、心の奥の方まで届いて、大切なものを思い出させてくれる、とても麗しい曲です。
「自分の中のすごくピュアなところだけを寄せ集めて作った曲。誰かがこの一曲で助かったらいいと想いながら作った特別な一曲」
かつて氷室氏がインタビューでそう語っていたのが印象深く残っています。

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人生は道なき未知

(氷室京介「IF YOU WANT」より)

“道なき未知を進め コンパスはMy Soul 明日を開く鍵は この胸にあるさ”

このフレーズで始まる「IF YOU WANT」から、わたしは果てしなく大きな愛を感じます。

人生の目的を知るために、人は歩き続けます。
自分の生き方を模索しながら、それぞれの道を歩き続けます。
時に歩くことに疲れたり、迷ったり、雨降りだったり。真っ暗闇で前が見えなくなってしまったり、何もかも信じられなくなってしまったり。
(この道は間違いだったんじゃないか?)と、立ちすくんでしまうこともあるでしょう。
時間の速さに心が追いつかない、そんな風に感じる時もあるでしょう。

(それで、いいよ)
(迷いながら間違いながら、自分だけの道を歩んでいけばいいんだよ)
(それが明日につながる今日なのだから)

聴き終わった後には、心の中からそう思わせてくれる一曲です。

道なき未知なのだから、間違ってもぶつかってもいい。
自分が歩んでいる道が正しいかどうかなんて、実は分からない。
そして正しい道が、本当に自分の歩きたい道なのかどうかも、分からない。
間違いながら、歩きたい方へ歩いていけば良い。

自分の求める道は、外側にではなく、内側の「わたしの魂」にあるのです。
人生の羅針盤は、外側の他者の声ではなく、「内側のわたしの声」なのだということを優しく強く思い出させてくれます。

東日本大震災を受けて、誕生

「軽々しく言葉が選べないですよね。事が重大過ぎて、相応しい言葉を選ぶと言っても、どんなに選んでも相応しい言葉はないな、というのが実感なので」

これは、氷室氏が日本テレビ「NEWS ZERO」のインタビューで語った言葉です。

当時、氷室氏は2011年4月から使用される予定だった「NEWS ZERO」のテーマソングの歌詞を書き直す決断をしました。
3月11日、東日本大震災が起きたことを受けての決断です。
そして、誕生した曲が「IF YOU WANT」です。
遠く離れたロサンゼルスから「今の日本にできることは何か」を自問自答しながら、何度も何度も書き直し(きっと苦しみながら)言葉を紡ぎ、言葉を尽くし、誕生させた魂のこもった一曲です。
わたしにはそう聴こえます。

この「IF YOU WANT」は、バイオリン、ビオラ、チェロなどの弦楽器の美しいストリングスで始まります。
ストリングスのアレンジをしたのは、デヴィッド・キャンベル氏。マイケル・ジャクソンなどのトップアーティストのアレンジで有名な方で、アメリカ音楽界の最高峰・グラミー賞の常連です。レコーディングでは、演奏者に「明るい音色」ではなく「温かい音色」を求めていました。それは被災された方たちの心を温めたい、という氷室氏の想いと繋がっていきます。

KYOSUKE HIMURO GIG at TOKYO DOME “We Are Down But Never Give Up!!”

2011年6月11日・12日の2日間、東京ドームで東日本大震災復興支援チャリティライブが行われました。
被災地に、ライブ及びグッズ販売等の収益金を全額寄付することを目的に(氷室氏自身の50歳アニバーサリーライブだったのを急遽、変更し)行われ、チャリティライブとしては国内史上最大規模の2日間で11万人を動員しました。

そして、もう一つ大きな決断をします。
それは、全曲BOØWYのステージにすること。東京ドームに集客するのもきっと順調にいくだろうという、氷室氏の考えによるものです。
プレッシャーや複雑な思いもあったことでしょう。
それでも今できる最善を、と自分自身に問い続けてその答えを導き出したのだと思います。

「ステージ・照明はできる限り簡素に、でもクオリティーは最高のものを」
「収益金を全て現地に贈るのであれば、最低限のセット、最低限の照明で」

というコンセプトで行われたチャリティライブでした。

ライブ中に氷室氏が「スタッフ、イベンターもプロモーターも比較的、プロ中のプロと仕事をしているので、どちらかと言えば金銭至上主義というか、お金にしっかりとした人達といつもやっているんだけど、今回はみんな自分のポジションを投げ打って、最高のシチュエーション、ステージを与えてくれた」と語った姿を、よく覚えています。

このチャリティライブの収益金の総額は669,220,940円。その全てが被災地に届けられました。
【収益金は、「寄付金または義援金」として、岩手、宮城、福島の三県に223,073,646円ずつ均等に配分して寄付をさせて頂きました。(氷室京介オフィシャルサイトによる)】

また、「IF YOU WANT」の氷室氏本人の著作権料は全額、震災復興支援を目的とした「こころ音基金」に拠出されます。

自分の決めたデコボコの道で迷えば良いのさ

「『誰かのために良く』でも、『自分のために良く』でも、いいから、いい結果のために悩み抜いた挙句に何かをやるのであれば、間違ってもいい」
「ただ、他人に対してできる限り、自分のできることであればナイスでいたいと思う。僕がほんのちょっと何かを動かすだけで、誰かが幸せになれるのなら何回でも動かそう、というのがありますよね」

これは、チャリティライブを前に語った氷室氏の言葉です。
「IF YOU WANT」に込められた思いが、そのまま伝わってくるようです。

“誰かが決めたレールの上を上手く歩けなくても 自分の決めたデコボコの道で迷えば良いのさ”

“一人一つの奇跡 信じ抜く時に 長く冷たい雨もやがて虹に変わる…
WE CAN BE HEROES THE ONE IN ALL OF US”

わたし達は、それぞれ一人一人の未知なる道を歩いていく。
それは、一人一人違う道で、間違いながら、自分で決めていく道。
だけれど、決して一人ではないのです。

自分がほんの少し何かを動かすことで、誰かが幸せになれるのなら何回でも動かそう、と思えること。
そして、誰かがほんの少し何かを動かしてくれるから、助けられていることも数え切れないほどある毎日なのです。

「IF YOU WANT」は、掛け替えのないわたしと、掛け替えのないあなたを、歩みたい道へといざなってくれる曲だと思います。
そういう大切ことを思い出させてくれる、とても麗しい曲です。
ぜひ、聴いていただけたらと思います。

読んでくださって、本当にありがとうございました。

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