(野村克也著『高校野球論』)
【野村克也氏の著書を、徹底的にレビュー。今回は今年2015年7月新刊の「高校野球論」を徹底レビュー ――記事の最後に自称野村マニアの私が採点^^】
高校野球論-弱者のための勝負哲学-野村克也氏が初めて甲子園への想いを綴った本ということで、これは読まねば野村克也マニアは名乗れないだろうということで綴っていきたいと思います。
今年の夏に甲子園球場で行われる予定の全国高等学校野球選手権大会は記念すべき第100回を迎えます。
その一方で、7月2日付の朝日新聞は「高校野球 次の100年のために」という特集記事のリードで
高校硬式野球部の部員数の減少を指摘していました。
「高校硬式野球部の部員数が15年ぶりに16万人を割った。『野球離れ』が高校野球の現場にも
実感として広がる」と記事は書きます。
世はまさしくサッカーワールドカップ一色。野球はいまどうなっているのだろう。
きっと、夏の高校野球100回にあの人は何かを発信してくれるはずです。
そう先日元気に83歳を迎えられたノムさんこと野村克也さんです。
いつも読んでいただきありがとうございます。ノムさん大好きな月見草パパです。
今日はノムさんが「初めて語る甲子園への思い。歴代の名選手の記憶」がテーマになった本、
「高校野球論」の面白かったところを紹介します。
【高校野球の次の100年への課題を特集する朝日新聞の紙面】
●高校野球大好きなノムさんが高校野球を語りつくす本
全国中等学校優勝野球大会がはじまったのは大正四年、一九一五年のことだった。
主催する朝日新聞によれば、きっかけは京都二中OBの会話だったという。
「今年の二中は強い。これならどこにも負けない。近県の中学を集めた大会をやろう」
「それはおもしろい」
ふたりはさっそく朝日新聞の記者に掛け合った。
・・・
こうして、いわば同時多発的に全国大会開催の気運が高まっていき、
一九一五年八月一八日、豊中グラウンドに東北から九州の九地区代表と
春の都下大会優勝の一〇校を集め、第一回大会が開催されたのである
(決勝は京都二中が秋田中に勝ち、初代優勝校となった)(「高校野球論」p2より)
これは、「はじめに」の冒頭の文章です。とことんまで事実を調べるのですね。
私は初めて知った話ばかりでした。とくにきっかけはOBの会話でそれが朝日新聞記者に
伝わったことから、今があるとは。何かのきっかけとは面白いものですね。
そして、ノムさんは高校野球が大好きで、時間が許す限り、テレビの前に座って
観戦しているということ。ノムさん自身も高校球児時代があり、高校野球にすごく
思い入れがあるのです。この本が書かれたのは2015年。夏の高校野球100年を
節目に書かれた本でした。
「この高校野球100年という節目に、自分の野球人生も振り返りながら、
高校野球に対して思うこと、言っておきたいこと、思い出の選手や彼らが織りなした
名勝負などについてしたためたのが本書である」と語るこの本。今年は100回の年、
ワールドカップが落ち着いたら、自分の県の高校に注目してみるのもきっと楽しいでしょう。
この本を予備知識に名勝負の話題などに入っていくのも楽しいと思います。
となりにいらっしゃるような熱さで、まあ、語りつくしています。
●人はなぜ高校野球に魅せられるのか
ノムさんは人はなぜ高校野球に魅せられるのかを語っていきます。その一つは
「地域密着のお手本」というものがあります。ノムさんは南海ホークスの監督だったころ、
オーナーや社長の顔をみるたびに口癖のように「高校野球を見習いましょうよ」と話したといいます。
当時南海ホークスというチームが入るパ・リーグは巨人をはじめとするセ・リーグの陰に隠れていて
そういう状態を変えたかったといいます。そのときに高校野球には甲子園に連日たくさんの観客が
押し寄せるの見てそれをヒントに、南海の本拠地をそのときの大阪から「和歌山か四国に
移しませんか?」と提案していたといいます。当時の関西は阪神タイガースが圧倒的な人気を誇り、
そこにパ・リーグの南海、近鉄、阪急が3つもあっては客がくるわけはないと考えたと。
ヤクルトスワローズの監督時代にも「北海道に行きましょうよ」「ドーム球場を作ったらどうか」
など提案していたといいます。それは地域密着こそ、チームを発展させ、球界全体を
反映させるカギだと考えたからでした。
これらはいま考えるとかなり当たっていて先見性のある提案だったことがわかります。
いまは、福岡ソフトバンクホークス、埼玉西武ライオンズ、北海道日本ハムファイターズ、
東北楽天ゴールデンイーグルスと地域密着で人気を博している球団ばかりです。
ヤクルトもそういえばいまは東京ヤクルトスワローズですね。
おらがチームの楽しさ、「負けたら終わり」が生み出すドラマ、甲子園の魔物の正体
とテンポよく高校野球の楽しさを語るノムさんの話は、
そうそう、だから高校野球は面白いと思えるものばかりです。
(野村克也著『高校野球論』)
【なぜ高校野球が日本中を熱狂させるのか――「一所懸命であること」と語るノムさん】
●“弱者の兵法”高校野球版 「野村監督」ならこうたたかう
私が監督になる前は最下位が定位置といっても過言ではなかった。かつては強豪だった南海も、
私が選手兼監督になる前年は最下位に沈んでいた、弱いチームを強いチームに変貌させる方法論と
ノウハウにはいささかの自身がある。そこで、もし私が弱小校の監督を任されたらどうするか。
弱小校が強豪校に勝つための必勝法を考えてみたい。(「高校野球論」p50より)
この本のひとつの読みどころはやはりというべきか、3章にある
「弱小校が強豪校に勝つために」だと思います。
野村流 “弱者の兵法” 高校野球版ですね。
近年の高校野球が、私立校が隆盛をきわめるなかで、「ふつうの高校」が甲子園に
出ることは不可能なのか。「弱小校」が私立の強豪に勝つことはできないのか。
いつものごとくノムさんの思考が始まります。ここは、どうやって弱者が強者に勝つかの
総合論を高校野球チームというフィルターで語られるところで、
プロの仕事にも応用できるものも大いにあります。
二つだけ紹介すると、「集めるべきは一芸を持つ選手」で、足が速い選手、肩が強い選手なら
探せばいくらでもいるだろうし、俊足はいるだけで相手バッテリーの脅威となり必ずしも
レギュラーでなくてもよいという話は実社会でも使えそうです。
例えば私なら、言われた仕事はすぐやるのが特技(?)です。とにかくまず提出する、
俊足さは身を助けていると思います。早いと手直しもできるんですよね。
もう一つは、「とは」教育を徹底させるということ。弱いチームに最初にすることは
「負けても仕方がない」ではなくて「おれたちは勝てるのだ」と選手に信じこませる
意識改革なのだと。そのために「とは」教育から始めるというのです。「野球とは何か」
「人間とは何か」「ピッチングとは」「バッティングとは」「リードとは」。野球の本質は
何かを選手たちに徹底的に問い、考えさせ、理解させることといいます。
「野球とは頭のスポーツ」といつもノムさんがいうことですが、そういうことを
ずっとプロでもやってこられました。高校球児にちゃんとやれば可能性ははかりしれない気がします。
あと、人間教育に力を入れよ、体づくり、敵を知り己を知るなど、
高校野球の「野村監督」を見てみたい気持ちにさせます。
●マニア垂涎の名選手、名勝負に涙
「こんな怪物がいた」の第4章では、名前だけでマニア垂涎ではないでしょうか。
名前だけあげます。藤尾茂、王貞治、板東英二、尾崎行雄、池永正明、江川卓、松坂大輔、荒木大輔、工藤公康、桑田真澄、清原和博、松井秀喜、ダルビッシュ有、斎藤佑樹、田中将大、大谷翔平、沢村栄治と嶋清一。
「私が選ぶ甲子園名勝負」の第5章も野球好きが語る名場面ばかりです。
「ドラマを超えたドラマ 箕島×星稜」は球史に残る延長18回の熱戦を箕島が制したのですが、
ノムさんは流れを克明に再現します。そして「甲子園では、嘘のようなことが本当に起こる。
映画の脚本化が同じストーリーを書けば、リアリティーがなさすぎると言われるようなことが
現実に起きるのが甲子園なのだ」と記しています。あの時間に何が起こったのか。
当時小学生だった自分の記憶もよみがえってきて体が熱くなって涙もこみ上げました。
(野村克也著『高校野球論』)
【1985年夏の甲子園を制したPL学園の清原和博と桑田真澄。「KK」「甲子園は清原のためにあるのか~!」の実況など当時、社会現象になりました】
6章はノムさんの高校野球への提言、7章はプロ野球よ高校野球に学べという思いです。
こういうことを言える人が貴重な存在なのだと思います。しっかりした経験と思考の上に
これからもさまざまな野球にたいしてボヤいてもらいたいと思いました。
<文献データ>
「高校野球論 弱者のための勝負哲学」 2015年7月初版(角川新書)
【===月見草パパの採点=== 88点】
※採点は100点からレーダーチャート1目盛―2点で独自に算出したものです^^
これから夏の高校野球全国大会が始まる次期に読めば野球好きな人との会話が弾む一冊間違いなしです。
大きな読みどころは、ノムさんが未来ある高校野球選手に何を確信と情熱をもって伝えようとしているか
という若者への指導者論と、名選手、名対決について熱く語った4章、5章だと思います。
野球好きには没頭できる一冊です。「高校野球は好き」という人はけっこういます。
この夏、この本を読んでそういう人に少しだけ深まった話をしてみてはいかがでしょうか。
全部ノムさんの受け売りではなく感動したことを話すだけでもかなりのところを攻められますよ^^