羊と鋼の森
2016年本屋大賞にも選ばれた宮下奈都さんの作品が映画化されています。

(詳しくはこちら)
山崎賢人さん演じる主人公外村が、調律師を目指すきっかけになった憧れの調律師・板鳥役にはベテラン俳優三浦友和さん。
板鳥の言葉は回りくどくないけれど、その短い一言に重みがあります。
主人公外村が最も影響を受けた人である板鳥の言葉に今回は焦点をあてていきたいと思います。

山崎賢人さん演じる『外村編』はこちら
鈴木亮平さん演じる『柳編』はこちら

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『焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです』
羊と鋼の森文庫20ページ


主人公外村が調律師を目指そうとしたきっかけを与えてくれた板鳥。
外村の憧れの調律師でもあるのですが、調律の世界に飛び込んで思うようにいかない事に、もがき悩んでいる時、外村に板鳥がかけた言葉です。

こつこつ、こつこつ…果てしなく遠い。
そんな時に外村は板鳥に質問をします。
どんなこつこつが正しいのかと。
そして返ってきた言葉がこちらだったのです。

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『この仕事に、正しいかどうかという基準はありません。正しいという言葉には気をつけた方がいい』
羊と鋼の森文庫21ページ

この言葉は実際に著者の宮下奈都さんが調律師さんに質問して返ってきた言葉だそうなんです。『正しい音』それっていったいどんなものなのかと聞いたときの返事だそうです。

どんなことにも言えるのかもしれませんが、きちんと確実にするということと正しさとは違うように思うのです。【柳編】でも書いた440ヘルツに合わせることは正しいけれど正しくない(笑)合わせたからよし!という基準なんてない。

正しいという言葉は気をつけた方がいい。
この言葉にはドキリとします。
自分が『正しい』と思っていることを疑うということ。
ついつい自分基準で考えてしまうことはよくありがちで、自分の正しさが人にとっての正しさとは限らず、押しつけになってることだってあるかもしれない。
調律もそうなのかもしれません。
この言葉はしっかり心に留めておきたいなと思った言葉でした。

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『明るく静かに澄んで懐かしい文体、少し甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体』
羊と鋼の森文庫65ページ

この言葉は日本の詩人、小説家でもある原民喜(はらたみき)さんの言葉とあります。
板鳥が目指す理想の音をそのまま表してくれていると。

そして主人公の外村もまた、そんな板鳥の音に魅了された、僕の世界を変えた音とまで言ってるわけですから、追い求めていきたい音なのでしょう。

この短い文の中に、気が遠くなるほど果てしない長い道であることを感じます。
どんなに経験、腕があっても、それでもまだまだ理想の音を求めていく板鳥。
外村はどんな気持ちで調律しているのかいろいろな質問を先輩たちにしています。
その中で板鳥は言葉は少ないですが、彼の仕事の姿勢こそがそれ以上に外村に影響を与えているのだと感じます。

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『お客さんでしょう』
羊と鋼の森文庫246ページ

外村が(調律師にとって一番大事なものは何か?)と板鳥に質問して返ってきた答えがこれでした。

お客さんが引きだしてくれるということです。
自分が作ったピアノの音。明るさだったり、柔らかさだったり、固さだったり。
美しい音色を引き出してくれるのはいつだって弾き手であるお客さんなのだと。

外村もその言葉で自分を振り返ります。
自分のお客さん…
笑って下さる人、不機嫌になる人、黙り込んでしまう人。
いろいろなお客さんがいるけれど、自分を鍛えてくれるのはいつだってお客さんだ!と気づくのです。
この外村の自分を『鍛えてくれる』という言葉が謙虚ですが前向きでとても好きなのです。
いつも喜んで下さる方ばかりではないのです。
もっとこうして欲しい!と注文をされる方、納得されない方だっているわけで。
それでも音を求めてくれるお客さんあってこそ、自分が高められていくという。

この物語を読んだあと私は調律師の気持ちを聞きたくて聞きたくて仕方なく、私はあれこれとお世話になる調律師さんに直接お聞きしました。

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聞いてて涙が出そうになったのは、やはりこの場面とかぶるからなのですね。
『お客さんでしょう』
その答えそのままだったから
なんですね。
音を求めて下さる方に引き上げてもらっていると。
良い調律師さんに出会えたことに感謝せずにはいられません。

調律師さんあってこそのピアノだと思っていましたが、この本を読んでから、さらに調律のお仕事の奥深さを感じます。
家にあるお気に入りのピアノの音、大好きな音。
ピアノの音色の奥にある調律師さんの気持ちが伝わるような音です。

次回は(えっ?そんなこと言っちゃうの?)と思ってしまう口ぶり。
でもその裏にある背景を知ることで出る言葉が深い【秋野編】をお送りします。

お読み頂きありがとうございました。