(野村克也著『なぜか結果を出す人の理由』)
【毎週1冊、野村克也氏の著書を徹底的にレビューしていく企画。今回はノムさんの「なぜか結果を出す人の理由」を語ります^^――記事の最後に自称野村マニアの私が独自に採点。座右の書にふさわしい点数がでました】
今回レビューする「なぜか結果を出す人の理由」には、ノムさんが「正しい努力とまちがった努力の違い」に焦点をあてて語った本です。
がんばっているつもりなのに結果を出せずにいる人へ、結果を出すための極意が体験談とともに熱く語られています。
ノムさん大好きな月見草パパです。関西出身の私にはノムさんの関西弁が心地よいものがあります。
あっさりした表紙の新書ですが、結果を出すための座右の書といえる名作と思える本書の面白いところを紹介します。
●マー君はなぜ負けないのか?
ノムさんは「はじめに」で、本の読者からの感想や、講演の感想で確信したことがあると語ります。それは、自分の専門分野をきわめようとして生きてきた人たちは、みなそれぞれにたどり着いた心理や原理原則をもっているということだったということ。
そういう人がノムさんの話を聞いて、口々に「野村さんの野球のエピソードを引き合いにすると、一気に腑に落ちることがある」と語るというのです。
例えばノムさんは、楽天監督時代に「マー君はなぜ負けないのか」とよく聞かれ、それにたいして技術的なテーマとともに、「チームメイトの信頼がだれよりも厚いから」という側面も大きいと答えます。
マー君の野球への姿勢、チームが勝つことに対する強い思いやチームメイトへの熱い思い。そういうものが、チーム内の「マー君が投げる試合は負けないぞ」という気運になっていく。それが、マー君が投げるボールそのもの以上に大きな戦力となって、マー君は何連勝もすると、野球以外でも通じる「負けない」原動力を明らかにしていきます。
つまり、なぜあの選手は活躍できるのか、なぜあの監督は勝てるのか、そこには「マー君が負けない理由」と同じように、組織や個人が成果を上げるべくして挙げている普遍的な理由があると考え、その理由を解きほぐしていくのが野村流の指導者論だと思います。この本は、そういう成功への普遍的な法則や豊かに語られています。
一番ノムさんが言いたいことであろうテーマが「はじめに」の後半にでてきます。同じような素質で、同じように努力しているのになぜこうも差がつくのか? なぜあの選手はあんなにがんばっているのに結果がでないのか? そういう問いかけに対して、ノムさんは、やはり原因と結果があり、ズバリ「正しい努力をしているのか、それとも、まちがった努力をしているのか」ということと答えます。結果を出す人の正しい努力とは何かを、野球の例から、野球以外の仕事の現場や実生活の中でも、そのまま参考にできる話が語られていきます。
●正しい努力に気づき変わる勇気
ノムさんは、結果を出す人の特徴の一つとして、正しい努力をすることを力説します。それを自分自身が努力は報われると信じて無名時代から力量を高めてきたことを振り返りながら説明します。その道のりは「持たざる者」として、テスト生の人気もお金もないところから這い上がり、監督に就任したチームはすべて戦力の乏しい状態からの出発だったと振り返ります。
そういう状態から恵まれた環境におかれた相手にどうやって勝つか、恵まれた相手以上の努力をしなければいけないのは当然だが、そこには努力の「量」の問題以上に「質」の問題が重要になってくる、まちがった努力などしている暇や余裕は一切なかったと語ります。
さらに、持たざる者が恵まれた者に勝つためには、正しい努力だけではまだ足りず、さらなる知恵と工夫をする努力、新たな発想やユニークなアイデアを生み出す努力をしなければ互角以上の勝負はできない。そこから生まれたのが、「野村ノート」「野村再生工場」「野村の考え」だったとノムさんの正しい努力の基本と応用を語ります。
同時に、正しい努力に気づいて変わる勇気をもつことを呼びかけています。天才と言われてプロ野球に入った選手が、さらに高い技術を
もった集団に入ることで伸び悩んで退団することは普通にあります。
そこで、努力がいるが、正しい努力に気づくことが大事だとノムさんは話します。正しい努力に気づいて自分を変えることのできる選手が急成長するというエピソードがいくつか語られます。
ヤクルトの川崎憲次郎投手は「(当時、巨人の)江川さんのようなインコースのストレートを決め球にしたい」と思って一生懸命投げてもバッターの餌食になるばかりで、そこにヤクルト監督時代の野村監督が“インコースのストレートに磨きをかけようとするのは努力の方向性が違う”“インコースのまっすぐを待っているバッターが最も嫌がるのは打ちにいったボールがちょっとシュートして食い込んでくること”とシュートを会得することをアドバイスします。
川崎投手は変わることを決心してシュートをマスターし、勝ち星を重ねました。ノムさんはいいます。「変わるというのは勇気のいる
ことだ。しかし、その変化を遂げたときには、これまでとは違う結果が得られる可能性が広がっていくのだ」と。
ノムさんの「野村再生工場」のエピソードには、こういう話が山のようにあります。指導者の役割とは、「正しい努力」の方向に
気づかせること、それに向かって勇気をもって変わることを理論と根拠を示して迫ることだとうきぼりになっていきます。
【「なぜ一生懸命に努力しても、いい結果がでないのか。その答えは、実はとても簡単なことだ。努力の仕方が間違っているのだ」。ずばり核心をつきます】
≪コーヒータイム ノムさんと張本勲さんの仲は?≫
「なぜか結果を出す人の理由」では元選手の張本勲さんの一流選手としての努力が紹介されています。張本さんといえば、今年ノムさんがサンデーモーニングの人気スポーツコーナー「週刊御意見番」の張本さんに対して批判して話題になりました。「日曜に“喝!”ってやってるだろ。お前にそんなこという権利あるか」「選手批判をする資格がない」と話したのです。
すると張本さんは次週より、突然「喝」の自粛をしはじめました。。ノムさんの声が届いたように見えましたが、お二人の仲はどうなんでしょう。
数多くの野村本では、意外と張本さんについて語っているものがあり、お互いを知り尽くした間柄であることが伝わります。ノムさんのことだから、話題にして「喝」に注目を集めることが狙いだったのかもしれませんね。
いくつか、野村・張本のやりとりを本から紹介します。
▼一流と呼ばれる結果を残した人たちは、努力を続けていくための習慣を身に付けている。たとえば、張本勲はこう言っていた。「夜の素振りは俺の睡眠薬だ」 実にいい言葉だ。素振りをしないと一日が終わらないというのは、私も同じだった(「なぜか結果を出す人の理由」p109~110)
▼張本選手は、東映、日本ハム時代に対戦したとき、私がしゃべり出すと「うるさい」と大声を出して席をはずしたものです。シメシメと思っていたのですが、何かのパーティーで会ったとき、「ボクは、カッカと燃えた方がいい結果が出せる」という。そういえば、怒らせては痛い目にあっていたのです。(「敵は我に在り 上巻」p90)
▼「ハリよ、A(投手)の女房は、病気で寝とるんや。こどもが可哀そうでな」「見れば見るほど、ええスイングや、文句なしに日本一、いや大リーグでもハリほどのバッターは少ないよ」 話題はなんでもいいんです。泣き落とし、おだて……とにかく「何を!」と燃えさせないように気を配った。とうとう「ノムさん、やめてくれ。わしゃ、ファイトがわかん、打てんよ」と、苦笑しながら申し入れてきた(「敵は我に在り 上巻」p90~91)
●努力は天才を上回るのか
第二章の「努力」と「才能」の関係の考察はこの本の大きな読みどころであり、時代も環境も超えた普遍的なテーマではないかと思います。
ここでは「才能があって、努力する人」で長嶋茂雄とイチロー、王貞治の例が。「才能があって、努力しない人」で南海ホークス時代の選手仲間の天才的な広瀬叔功投手、最近の例としてヤクルトの飯田選手、阪神の新庄選手などの例が。「才能は劣るけど、すごく努力する人」の例としてヤクルト監督時代に努力によって急成長した稲葉篤紀選手と宮本慎也選手の経験が、それぞれあげられ解説されて
います。やはり正しい努力を積み上げて大成した稲葉選手と宮本選手の練習の虫ともいえる姿勢に「才能」がない者でも、その人なりの成功が必ずできるという展望を得られる思いで読みました。
以後の章で、ノムさん自身の正しい努力のエピソード、チャンスを逃がさない人、結果を出す指導者の条件などが豊富なエピソードで
語られてきます。
<文献データ>
「なぜか結果を出す人の理由」集英社新書 2014年11月初版
【===月見草パパの採点=== 98点】
・「野村再生工場」の肝は短所の大改革にあり、・賞賛されて二流、非難されて一流、・指導者の基本は愛情。叱るにせよ、褒めるにせよ、基本はそこにしかない――などの興味深い命題はすべて具体的な選手とのエピソードで語られます。なかなか結果がでないことで行き詰まって
いる人へは「正しい努力」に気づいて、変わるためのヒントが。指導者には、愛情をもって部下に接して、「正しい努力」に気づいて、変わることを迫る。ふだんの仕事や生活の場で、こんなに野球のドラマが生きることに驚き、すぐに活かしたい勝負論の集大成ともいうべき内容がいっぱいの役立つ一冊です。