羊と鋼の森。
宮下奈都さんの調律師の成長物語が映画化されました。
今回はなんと滅多に見られない調律師さんの仕事に潜入、直撃取材!
と言いますか、タイミングがいいのか悪いのか『羊と鋼の森』の映画を観にいった日に、我が家のピアノの弦がブチっと切れたのです(笑)
しっかり調律師さんの仕事ぶりを見せて頂いたので、映画では描かれてない調律師さんの本当の姿を、さらには大興奮の調律の体験談をお伝えできたらと思います。
調律師が仕事でチェックするピアノの中を公開
ピアノは88の鍵盤でできています。
ピアノの蓋を開けて覗いてみますと、こちらは高音の弦ですね。
『羊と鋼の森』の鋼とは弦を表しています。高音の弦は伸線(鋼を引き伸ばしただけの銅線を巻いていない線)という1本の線でできており、1音に3本弦が張られています。
(飛び出ているところが今回切れてしまった箇所です…)
そして低音。高音域から低音域に進むにつれて弦を長く太くなっていきます。
低音のこちらは巻線といい芯となる銅線にぐるぐるとらせん状に銅線を巻いたものになっています。
しっかり線を新しく取り替えてもらって音を合わせていきます。
『簡単なことほど難しい…』
とピアノ練習でも言われてきたことですが、調律もそうなのだと仰ってました。
この1音に対して張られている3本の線(低音は2本)を均等に合わせる、これのどれだけ難しい事か!
映画では基準音のラに合わせる様子がありましたが、いやいやそれがとっても難しいのです!3本の中のまずは1本の音を合わせていきます。このあたりは調律の方法も一つではないでしょうけど、その後に音階を整えていきます。ドレミの音階が揃って、さらに3本を合わせていきます。
この3本、どれかが飛びぬけてもダメなのです。この1音を合わせることのどれだけ難しい事か!
映画ではここまでは伝わらないところですね(^^;
憧れの調律師体験・チューニングハンマー
「やってみますか??」の調律師さんのお言葉に大興奮!(笑)
わざと音をわかりやすいように狂わせてくださいました。
そして、この憧れのチューニングハンマー!これだけでピアノ好き&音楽好きの私は感激です!!
実際にやってみると…
難しい!!!の一言(笑)
見てるより意外と重い…
そしてこの音を聴く集中力のいること。
違ってるとはわかっても近づかない、どんどん遠ざかる音…
掴みたくても掴めない音にいやーー!!!と悲鳴も上がります(笑)
焦る外村の気持ちが分かった「オクターブ合わせ」
映画の場面にある、双子のお宅で調律が上手くできず焦っている主人公外村の姿が重なる思いがしました。
気の遠くなるような作業。1音でこれなのです。88鍵を合わせることの大変さ。
さらに音が合ったらオクターブも合わせていきます。6本の弦を揃えていき、調律師さんは3オクターブまで聴いています。
『ここに残ってるでしょ?』
目にも見えない、カタチもない音の余韻を捕まえる作業がどれほど果てしないか。
それでもオクターブが揃ってる気持ちよさはわかります!届くのです!響くのです!
それは空間に対してだけでなく心にもと言うのでしょうか。
あれやこれや触っているうちにも、どこかがまた狂いだしてくるのです…もう逃げたくなります私なら(笑)
調律師さん無くしてピアノ無し
映画でもありますね。
音と向き合うことは自分と向き合うこと。
こんなにも葛藤しながら音を揃えていく作業。そしてまだまだ調律師さんのすることはあるのです。
ここから和音を合わせていきます。
こんなに大変なことを毎回されてたのかと改めて調律師さんの素晴らしさを感じていました。
この音なくしてピアノを弾くことはできないのですから。調律師さんあってのピアノなのです。
さらに『ここが迷うところです。どうしますか?』という問いに
もう訳が分からない(笑)
『好み』ですと一言。
微妙な違いここが好みの問題になってくるのだと力説させますが、ここまでにくるのにどれだけ大変なことか!
映画では好みのあたり焦点当てられてますが、好みの前にここまでくるのがぁぁと叫びたくもなりました(笑)
(調律師さんに修正して頂いているところ)
出口のないトンネルのような…
『終わりはあるのですか?』という私の問いに
『ありません』と仰る調律師さん。
自分で終わりを決めなければならないところもあると。
いつも時間をかけてピアノを調律して下さることに感謝すると同時に、この映画を機会に
そういうことに気づくことができてよかったと感じます。
そしてこの写真。
ピアノの下に潜り込みますが、毛布をかませています。
お見苦しくてすみません…(笑)
『羊と鋼の森』のラスト結婚式でも取り上げられていますが、人の出入り、食器の音、いろんなものが音を吸収したり、反響させたりする原因になります。我が家のピアノはこういう対策をして音を吸収してもらってるのです。以前は3枚ほど毛布を置いてましたが、今は1枚になりました。
音を作ること、空間を作ることはとても難しいですが、それでもいい音に出会ってしまうと病みつきになってしまうのでしょうね。耳も肥えてきますから(笑)
憧れのチューニングハンマーを触れた貴重な経験、この映画のおかげですね。
また映画の美しさだけでは語られてない調律師さんの苦労と素晴らしさもありました。
これからコンサートなどでピアノを聴くときは、支えて下さる調律師さんの姿を感じたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。