(野村克也著「運 ツキと流れを呼び込む技術」)

【野村克也氏の著書を徹底的にレビューしていく企画。今回は「運 ツキと流れを呼び込む技術」を徹底レビュー ――記事の最後に自称野村マニアの私が採点します^^】

ノムさんこと野村克也さんはこれまで110冊を超える著作を出版されていますが、今回はノムさんご本人曰く「最初で最後の〈野村の運の書〉」である「運 ツキと流れを呼び込む技術」の特徴や読みどころをご紹介します^^。

ノムさんの本はどれも突き出しどころがあって読むたび新鮮です。この本は、多くの人がサイコロで決まるものだと考えるであろう「運」「ツキ」「流れ」とはいったい何なのか、どうすれば作り出すことができるか、同時に勝負相手の「運」「ツキ」「流れ」をどのように奪うか、など、豊富なエピソードと論理で核心にせまっていきます。

はっきり言ってノムさんの本はどれもハズレなしだと思いますが、特にこの本は「運」や「ツキ」という不思議なテーマにたいしてちゃんと野村流に説得力もって語りきっているところが面白い一冊です。これまでご紹介させて頂いたノムさんの本同様、私なりに最後に採点しちゃいます。(恐れ多くもありますが、意外と好評で嬉しいです^^)

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いつも読んでいただきありがとうございます。ノムさん大好きな月見草パパです。

 

●野村克也が語る・なぜマー君に運が味方するのか?

私は野球のプロとして「なぜこんな不思議なことが起きたのか」を検証することにした。従来のセオリーだけでは根拠が見いだせないからといって「不思議」のひと言で終わらせるのではなく、もっとその先を突き詰めてみよう。そこには「なぜあの人は運がいいのか」の答えがあるはずだ。・・これは、理をもって運を引き寄せる、根拠のある運を呼び込むための最初で最後の「野村の運の書」である。――「はじめに」より(p5)

 

ノムさんは本書の「はじめに」で、ずばり本のテーマを語っています。「運」について突き詰めて答えを探した最初で最後の「野村の運の書」であると。

ノムさんは、普通、運やツキというものに頼らないということをよく書かれています。勝つことに不思議な勝ち方はあれど、負けには必ず理由があるという見方です。そのうえで、実際に野球人生で「幸運な選手」を見たこと、例えば現在メジャーリーガーで元楽天のマー君こと田中将大投手のことをあげて、「運」について迫っていきます。

ノムさんが楽天監督時代に楽天でプロデビューしたマー君は打たれても打たれても味方打線が逆転してくれるので思わず「マー君 神の子 不思議な子」と言ったと回想します。それは楽天初の日本一となった2013年に24連勝という信じられない記録につながりました。こういう運がなければなしえない偉業がどのような根拠があったのか。

ノムさんの答えは、やはり、根拠あるものでした。「マー君の例で言えば、マー君の日ごろの姿勢や努力が運につながっていた。つまり、きちんとしたプロセスがあったからこそ、運を呼び込み、いい結果につながっていたのだ」と。さらに野村流に運の根拠、ツキのプロセスの考察は続いていきます。

●ノムさんのいう運の正体

 エースになれる選手は、言うまでもなくピッチャーとしての素質もトップクラスだ。それでいて、自分に厳しく、だれよりも努力をして、心身を磨いている。だからこそ、チームの選手たちには「マー君はだれよりもがんばっているから、あいつを負けさせるわけにはいかない」「杉浦が投げる試合は絶対に勝とう」という気運が生まれる。そのムードが選手たちの心に火をつけ、彼らがマウンドに上がる試合はみんながよく守り、よく打つのだ。・・・つまり、2人の姿勢や存在感には、周囲を巻き込む力がある。それが2人の強運につながっているのだろう。(p87)

 

ノムさんは2章「運を呼ぶ技術」で運の正体について分析していきます。普段からよく練習し、人間的にも応援したくなる選手が強運につながっているのではないかというのです。どこまでも根拠がありますね。当たり前の話のように聞こえますが、まわりの応援まで得られることって簡単なことではないと思います。同時に、それならがんばれば自分もつかめるものではないかとも思わされます。

3章「見えない力」でノムさんは「野球の神様とは何か」と問いかけます。この本はこういう不思議系のワードに対して、その存在を感じるノムさんが根拠をさぐっていくところが読みどころだと思います。「野球の神様の計らい」「野球の神様のいたずら」などと言われることが起こるし、ノムさん自身もその存在を信じているとして、「そもそも、私がなぜ野球の神様を信じているのか。それは、努力を信じているからだ」といかにも野村流に答えます。

ノムさんが野球の神様を感じたのは、自身が現役のころ当時の1シーズン最多の52本目のホームランを最終試合で、勝負をさけたピッチャーから打ったときだったと語っています。いろんな偶然が重なって記録となる。野球の神様は努力を見ていてくれたのだと思ったといいます。

コラム 83歳(6月29日が誕生日)を目前にボヤキはますます健在
6月16日放送のニッポン放送の「ナイタースペシャル ロッテ-巨人戦」で解説を務めたノムさんはいつものボヤキ健在で、巨人の守備についていつものようにボヤきました。ノーアウト一塁の巨人内野陣の守備位置について、ロッテ選手がバントの構えをしているのに、「守っている巨人はシフトもなにも敷かないんですね」「じ~っとしたまんまですし、バントし放題ですよ。守りでもプレッシャーをかけられるわけですから。バントかと思ってダ~っとシフト敷いたら、バッターも良いバントをしなきゃと余計失敗するのです。全然動かないでしょ」と続けました。82歳にしてお元気です。いつも考えて感じて野球を見ているのですね。
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●「流れ」とは何か?

「流れ」を私なりに定義するとすれば、「勢い」であり「雰囲気」であり「感性」である。劣勢だったチームが流れをつかんで、勢いに乗って逆転勝ちをする。いい流れが来て、それまで沈んでいた空気がガラリと変わって、ベンチもチームもいい雰囲気になって逆転勝ちをする。目に見えない流れを感じる力、つまり感性が優れている選手や監督がいるチームが流れをつかんで、実力が上回っている相手に勝つ。(p175)

 

5章「流れの正体」では、野球の試合の中で、常に勝敗を左右するキーワードのように言われる「流れ」が考察されます。私はここで、人間・野村克也の魅力をズッシリ感じるエピソードに出会いました。

キャッチャー時代のノムさんはピッチャーに必要な球を要求し、様子の変化にも敏感に対応します。打たれだしたピッチャーが顔面蒼白になる。そのときに「結果なんか気にしないで、とにかくしっかり腕を振れ」と伝えたいが、言われてすぐできるぐらいなら、とっくにそうしているだろうと考え、顔面蒼白になっているのはすでに普通の心理状態を保てなくなっているからだと考え、声のかけ方も工夫すると。野球と全然関係ないことを話して緊張をほぐしたピッチャーもいたといいます。その話が面白くて、でも私には泣かせるものだったのです。

「なあ、ネット裏の真ん中から5番目の若い女の人の顔が見えるか?」
「あ、はい。見えます。うわ、すげえ、美人」
「そうやろ。俺もずっと気になってみてたんやけどな」
「モデルかなんかですかね。スタイルもいいし」
ここでピッチャーに血の気が戻ったのを見てから、簡単にひと言だけ言う。
「きょうのおまえの真っすぐは走ってるから、とにかく、しっかり腕だけ振れ」
これで、ピッチャーが立ち直ればしめたものだ。(p189)

 

血の気が引いているときに、ふっと気をまぎらわせてくれて、そのうえで信頼と自信を与え、ひと言だけの指示を与える。つくづく人間同士なんだなあと思って泣けてきました。これ映画の一場面になりようじゃないですかね。逆にいうと、現実の社会のなかでこれほど気が利く先輩や上司、仲間が少なすぎるのかもしれません。

しかし、これをノムさん流にみると、“そういう存在が少ないからこそ、それに気づいた君が抜け出せるチャンスやないか”ということかもしれませんね。だんだんとノムさんだったらどういうかが聞こえる気がしてきました。

(野村克也著「運 ツキと流れを呼び込む技術」 p189)

「なあ、ネット裏の真ん中から5番目の若い女の人の顔が見えるか?」。大ピンチのときにかけるひと声でピッチャーが平常心をとりもどす

●野村の女運 ノムさんの貴重な占い談も

不細工な私は男としてさっぱりモテないから、なんとかしてそれを補うために女性心理を研究したり、どうすれば女性が喜んでくれるかを観察したり試したりした。しかし、野球では傾向と対策がピタリとはまることもあったが、女性のほうは、どんなに努力しても、からっきしダメだった。ぜんぜんモテなかった。私は高校を卒業してプロ野球選手になるとき、占い師にこう言われた。
「あなたの仕事運は、とてもいい。もし失敗するとしたら、それは女が原因です」
いまにして思えば、さすが京都で「よく当たる」と評判だった先生だけのことはある。(p232)

 

「おわりに」のまとめ的文章はサービス精神たっぷりに自身の占いの体験談を書いて、大当たりだったと書いています。たしかに南海監督解任も阪神監督解任も奥さんのサッチーこと野村沙知代さんがからんでいました。しかし、ノムさんはいうのです。

南海を追われて落ち込んでいる私に女房は言った。「南海なんかやめたってなんとかなるわよ。あなたには野球しかないんだから、もっと野球をがんばりなさい」と。「そう尻を叩いてくれる人がいたからこそ、ここまで長く野球の世界で生きてこられたのだ」、と奥さんとの関係をすべて運がよかったと振り返っているのです。これは無理やりなポジティブシンキングではなく、ノムさんの実感だとよく伝わります。「私はこう見えても気が小さくて人がいい。そのうえ本当は怠け者だ。そういう男はこういう強い女に叱咤激励されなければ何ひとつ満足に成し遂げられないということを見抜かれていたのだ。だれが見抜いていたのか。それは神様と女房だ。どっちも『カミさん』だ」と最後は笑わせてくれながら、沙知代さんへの感謝を書いています。よくバラティーで恐妻家スペシャルとかやっていますが、恐いと思いながら本当はここまで感謝しているって素敵な夫婦だと思いました。

最後のまとめの一文をここで書いてもよいものか?笑 ノムさんは言います。「運命は変えられるか?運は自分で切り開けるものなのか? 私の答えはYESである」。正しいプロセスを経て努力すれば、かならず幸運に恵まれるときがくる。決してスター性や恵まれた環境があったわけでもないのに、望む人生を正しい努力でつかんできたノムさんだから説得力があり、生きる勇気を得られる思いです。

<文献データ>

「運 ツキと流れを呼び込む技術」 2017年2月初版

【===月見草パパの採点=== 94

ノムさんは多くの本で、“データをもとに考え、感じて、行動する”という定番の話をします。この本は、その先の「運」や「ツキ」、「流れ」といういかにも不思議な現象にどう向き合うのか、それらをどうとらえて対処し、力にしているのかが主題となる異色さがあり、しかししっかり野村流であり、運を切り開いてきた当事者のお話としてとても面白く興味深いものがありました!「運」のつかみ方がわかるということは「運」をつかめることにつながり、読者は励ましを受けるでしょう。野球好きが熱くなるエピソードもたくさん。同時に初めての人にも「運」を入り口に読みやすいものになっています。どなたでも「読んで損なし」だと思いました。高得点の94点をつけます。

 

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