なぜ 夜空を見上げたのだろう
なぜ あんなに泣いたのだろう

氷室京介の「MOON」は静かに、聴き手に、そう問いかけて始まります。

それは無理強いしないけれど、心の奥深くにいる自分自身に届くような、問いかけ。
聴いているうちに、いつの間にか現実から離れ、自分の中を旅するような心持ちになってきます。

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「Higher Self」の中の「MOON」

氷室京介のバラード曲「MOON」は、1991年4月6日にリリースされた3枚目のアルバム『Higher Self』に収められています。
このアルバムは、ソロになって3年目、氷室氏が30代になったばかりの頃の作品です。

わたしは、今、もう一度じっくりとCDで聴いてみたくなりました。
スマホで聞くBGMではなく、丁寧に作品と向き合いたい、そんな風に感じたのです。
そして、当時の氷室氏の考え方や、作品に対する想いなども一緒に知りたい、そうも思いました。

それは、文学作品とともに作者の生き方を辿っていく、そういう作業に似ているかも知れません。

ファンクラブ会報誌「KING SWING (No.9)」

ファンクラブ会報誌「KING SWING (No.9)」の中に、リリース直前に語られた氷室氏の言葉を見つけました。

以下に、その言葉を抜粋し、掲載させていただきます。(カッコ内は加筆しました)

「(中略)意識の中で、俺は明らかに『NEO FASCIO』(前作)の時より先に進んだところで作ったという気持ちがあるんだ。
で、その意識というのは、人には見えにくいのかも知れないって思う。

でも、具体的な変化よりも、俺はそのことが一番重要なことだと思っているんだよね。
だから、ごく普遍的なラヴ・ソングを歌っていたとしても、それは『FLOWERS for ALGERNON』(ファーストアルバム)から『NEO FASCIO』という作品を作ってきた上での氷室京介が歌っているわけで、それ以前より広くて、高くて、深いところで歌っているというかね。(中略)」

「あとは作品を聴いて感じて欲しいってことになっちゃうんだけどね。
なんで音楽やっているかという話になった時に、精神的なものが占めている割合がすごく大きい人間なんだよね、俺は。つくづくそう思うんだ。(中略)」

ファンクラブ会報誌「KING SWING (No.9)」

そう語りながら、インタビュアーに対して「ちょっと分かりにくいかな?」と微笑みかけていた、当時の氷室氏。

今のわたしならば、どう答えるだろう?

「よく分かります。やっとそういう自分になってきたと感じています」と答えるかも知れません。

人からは見えにくい意識の変化であっても、他の誰でもない自分自身が、そのことを一番感じられる。それでいいと思っています。

それは、きっと、自分自身がそう素直に感じることの方が、実は困難なこと。それが分かってきたからだと思います。

そして、氷室氏の(それ以前より広くて、高くて、深いところ)という言葉。

アルバムタイトルである『Higher Self』とは、もしかしたら、それを体感できる瞬間を、ずっと求め続ける生き方なのかも知れません。

他の誰かを納得させるのではなく、ただ、自分の心が納得する生き方。

「MOON」を聴きながら、そんなことを思いました。

(なぜ)を想い出させてくれる「MOON」

なぜ 孤独は消えないのだろう
なぜ 明日と争うのだろう
まだ ことばは愛に迷う
MOONLIGHT なにかが変わろうとしても
MOONLIGHT 光を閉ざそうとしても
永遠は誰にも奪えない

「MOON」の世界観が、この歌詞から伝わってくるようです。
(なぜ)と、聴き手の心の奥深くにいる自分自身に届くような、問いかけ。

この心に響く(なぜ)は、6度繰り返されます。

大人になって年を重ねるほど、自分自身に(なぜ)と問いかける時間が減ってくる、そう感じたことはないでしょうか。

その心の傷みや悲しみ。あの日の自分、そして今日の自分。
本当は、傷付いた自分を優しく抱きしめたい、そう思っているのかも知れません。
本当は、思い切り泣きたい、そう感じているのかも知れません。

忙しい毎日に、心をすり減らして(なぜ)と、自分自身に聞いてあげることを忘れてしまっているかも知れません。

そういう素直な(なぜ)を想い出させてくれる優しい曲です。

「OVER SOUL MATRIX TOUR 1991」で聴いた「MOON」

ライブツアー「OVER SOUL MATRIX TOUR 1991」は、全国45公演、約15万人を動員しました。
アルバム『Higher Self』がリリースされた翌月から始まったツアーで、わたしの氷室京介ライブデビューとなったツアーでもあります。

当時高校生だったわたしは、同じくヒムロックファンの友人とドキドキしながら会場に向かったことを覚えています。
あの日、初めて聴いた「MOON」が、実は一番心に残っています。ライブ前から「この曲が一番好きなんだ」と語っていた彼女。
念願の「MOON」を聴き終わった彼女の横顔には、涙が伝っていました。
当時のわたしは、その感受性を美しく感じると共に、涙を流せた彼女を、羨ましく思いました。心を震わせ涙を流している彼女のことを、ちょっと大人に感じたのです。
「MOON」を聴く度にわたしは、高校生だったあの日のことを想い出します。
そして、時を経て今もお互いにヒムロックファンで居続けていることを嬉しく思うのです。

あなたの「MOON」

なぜ 思い出まぶしいのだろう
なぜ 微笑み探すのだろう
いま かすかな夢にまぎれ
MOONLIGHT ぼくらにまちがいがなく
MOONLIGHT 涙が嘘つきじゃなく

時には、夜空を見上げて琥珀色の月を見つめてみよう。

柔らかな月明かりと一緒に過ごしてみよう。

そうして、自分自身に(なぜ)と問いかけてみよう。

静寂の時の中、思いがけない自分と出会えるかも知れません。

あの日のあなた、明日のあなたに、出会えるかも知れません。

読んでくださって、本当にありがとうございました。

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